軽度外傷性脳損傷

MTBIの定義

軽度外傷性脳損傷 mild traumatic brain injury(以下MTBI)は、過去において様々な定義が使われてきました。
そこで2004年にWHOは過去22年間のMTBIに関連する文献 38806件を検討して、MTBIに関する学術論文をまとめ、その中でMTBIのWHO定義(表1)を提唱しました。
WHOは受傷時の意識障害の概念についてはアメリカ・リハビリテーション医学会(ACRM)の定義(1993年)を継承して、意識喪失がなくとも頭がボーッとするといった、いわゆる意識の変容と呼ばれる精神状態に陥った場合でもMTBIが起こるとしました。
さらにWHOは受傷後30分の意識障害の重症度をGIasgow Coma Scale Score(GCS)で13点から15点と定めました(表2)。なお、外傷性脳損傷はGCSにより軽度、中等度、重度に分類されます。そして頭部外傷の転帰はグラスゴー転帰尺度で評価されます。

TBIの発生頻度と予後

WHO報告によれば外傷性脳損傷(以下TBI)の10万人当たりの発生頻度は150人~300人となります。
TBIの全世界の罷患者数は毎年1000万人にのぼります。
その内MTBIはTBIの9割を占めます。MTBIはほとんどが数カ月から1年で回復しますがMTBIの1割前後の患者は回復することがなく残念ながら一生、後遺障害に苦しんでしまいます。

MTBIの臨床症状

日本ではTBIの後遺障害は主に高次脳機能障害から論じられてきましたが、このような偏ったアプローチでは多彩な臨床症状を呈するMTBIの全体像が見失われやすいのが現状です。MTBIの臨床症状は実に多彩です。


1. 末梢損傷やその他の原因によって説明できない脳損傷の物理的症状
(例:吐き気、嘔吐、めまい、頭痛、倦怠感、かすみ目、睡眠障害、だるさ、無気力、その他の感覚喪失等)
2. 精神状態やその他の原因によって完全には説明できない認知障害
(例:注意力、集中力、知覚、記憶、音声、言語の実行機能等)
3. 行動の変化、身体的、または精神的なストレス、その他の原因によって説明できない心理的な反応の変化
(例:過敏症、イライラ、鬱、情緒不安定等)

当院では脳MRI、脊椎MRI、脊髄MRミエログラフィーといった侵襲のない検査から始め、必要であればCTミエログラフィーその際に髄液圧を測定するという順序の検査を推奨しております。

MTBIの病態

MTBIでは臨床症状の発現が受傷後数時間から数日間時に数週間遅れることがあります。
これはMTBIにおける軸索損傷の異種混交(heterogeneity)と時間的進行(temporalprogression)が関係して起こる現象です。
軸索損傷では正常な軸索、崩壊する軸索、変性から回復する軸索とが混在しており、これは異種混交と呼ばれています。
また軸索損傷はeventではなくprocess と呼ばれ変性は時間と共に進行します。
そして各軸索の変性が量的、質的にもある一定の閾値に達した時に初めて臨床症状が現れから受傷直後に発症しないこともあるのです。

MTBIの治療

今現在確立された治療法はありません。
しかし再生医療(間葉系幹細胞治療)の効果を期待しております。

軽度外傷性脳損傷の診断基準(WHO)

MTBIとは,外部から物理的な力が作用して頭部に機械的なエネルギーが負荷された結果起きた急性の脳損傷である。
第一要件)受傷後に混迷または見当敵陣害、30分以内の意織喪失、24時間未満の外傷後健忘症、またはこれら以外の短時間の神経学的異常、たとえば局所徴侯、痙攣、外科的治療を必要としない頭蓋内痍患等が少なくともひとつ存在することである。
第二要件)外傷後30分後ないしは後刻医療機関受診時のGCSの評価が13点から15点に該当することである。(除外項目)
1.薬、アルコール、処方薬
2.他の外傷または他の外傷の治療(たとえば全身外傷,顔面外傷,挿管)
3.心的外傷,言語の障壁,同時に存在する疾病
4.穿孔性性頭蓋脳外傷
 ・軽度外傷性脳損傷 mildTBI:GCS13~15
 ・中等度外傷性脳損傷 moderateTBI:GCS9~12
 ・重度外傷性脳損傷 severe TBI:GCS3~8

GCS(Glasgow Coma Scale)

記述は、「E 点、V 点、M 点、合計 点」と表現される。正常は15点満点で深昏睡は3点。
点数は小さいほど重症である。


開眼機能(Eye opening)「E」

• 4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼
• 3点:強く呼びかけると開眼
• 2点:痛み刺激で開眼
• 1点:痛み刺激でも開眼しない


言語機能(Verbal response)「V」

• 5点:見当識が保たれている
• 4点:会話は成立するが見当識が混乱
• 3点:発語はみられるが会話は成立しない
• 2点:意味のない発声
• 1点:発語みられず


運動機能(Motor response)「M」

• 6点:命令に従って四肢を動かす
• 5点:痛み刺激に対して手で払いのける
• 4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
• 3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(除皮質姿勢)
• 2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢)
• 1点:運動みられず


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